建築家青木弘司による「調布の住宅」を掲載します。青木は藤本壮介建築設計事務所に8年間在席し、数々のプロジェクトを担当した後、2011年に独立します。その後、展覧会の会場構成や住宅プロジェクトに関わりながら活動してきました。「建築の設計は、さまざまな要素間の関係性を然るべき序列の下に再編していく作業の連続であり、それは、その場所にありうべきモノとモノとの力関係を、ひとつひとつ見出していくこと」 だと建築家本人が述べているように、今回の改修においても単に既存/新設という2項対立によって整理しようとするものではなく、建築を構成する諸要素の成り立ちへと想像力を展開することによって現れる様々な「時間」を掬いとりながらそれらがしかるべき序列 — バラバラのまま併存しうることを可能にする — のもとに再編されています。


















【以下建築家によるテキスト 】
「リノベーションからフラグメンテーションへ」

賃貸併用住宅の改修である。一旦内部をスケルトンにして、構造的な補強と設備的なリニューアルを行った。オーナーの住戸に関しては、3層にわたる木造の軸組を現した上で、子供たちが自立した後の夫婦ふたりの生活の場として、空間を再構築している。 ところで、従来のリノベーションの事例に見られるような、新旧の対比が現れてしまうようなデザインは、どこか時間的な断絶に加担しているようなジレンマを感じる。既存の空間をフレーミングして単なる骨格と位置付けて設計する手法は、この家の25年間の時間的な蓄積に対する、ある種の敬意を欠いた態度のように思われた。過去を標本化せず、生きた設計の対象として捉え直したい。
ここでの時間に関して、もう少し丁寧に見てみると、既存の家には、そこに住まう家族によって生きられてきた時間が存在しているし、本や写真、家具などの家族の持ち物には固有の時間が内在しているともいえる。さらにいうと、既存の柱や梁といった建築的部位は、いわゆる慣習的な要素であり、社会的な蓄積としての時間が宿っている。そして、今回の計画の中で想定していったさまざまな物事によって、これから紡がれていく時間もあるはずだ。これらの時間を一元化するのではなく、今までの時間も、これからの時間もバラバラのまま並存させたいと考えた。
この家では、既存の部分も、今回の計画によって付加される部分も、あらゆる雑多なモノも全て断片化し、価値の優劣なく並置している。あらゆるモノが断片化することは同時に、モノとモノの関係性の種類に膨大なバリエーションを与えることであり、その結果として、リビングルームやダイニングルームといった主要な部屋のシーン以外にも、無数のシーンが断続的に現れる。住み手は、持続的に空間に関わりながら、日々あたらしい楽しさや悦びを発見していく主体となる。 このような断片化(フラグメンテーション)は、建築の時間的な射程を拡張し、身体と空間の拮抗した関係を構築するための、ひとつの方法論といえるのかも知れない。

【Profile】 青木弘司
1976年、北海道生まれ。札幌市立宮の森小学校、札幌市立向陵中学校、北海道札幌西高等学校、北海学園大学工学部建築学科卒業後、室蘭工業大学大学院を2003年に修了。藤本壮介建築設計事務所を経て、2011年、青木弘司建築設計事務所設立。藤本壮介建築設計事務所在籍中は、医療福祉施設や図書館から、東京都内の小住宅にいたるまで、事務所の創設期から約8年にわたり、大小さまざまなプロジェクトに関わる。「伊達の援護寮」では日本建築家協会JIA新人賞を、「情緒障害児短期治療施設」では 2006年度AR Awards最優秀賞、2007年度日本建築家協会JIA日本建築大賞など、担当した作品が国内外で多数の賞を受賞。2012年—武蔵野美術大学非常勤講師、2013年—東京造形大学非常勤講師。


Posted by Shinichi Kawakatsu