森田一弥建築設計事務所が手がけた、茶道具や工芸品の製作を手がける京都の高野竹工の祇園の店舗「篁 (たかむら)」を紹介します。
竹を格子に用いた繊細なインテリアで覆われ、高野竹工の持つ精緻で熟練された技巧が表れた空間です。














以下、建築家によるテキストです。

有機物の「隙間」と無機物の「面」 
by 森田一弥

人類の生存圏である地球の表面は、有機物と無機物で構成されている。有機物とは、平たく言えば「生物に由来する物質」であり、無機物とは「生物に由来しない物質」である(人類が無機物から有機物を合成できるようになってその定義も変わりつつあるが)。そしてこの二つの素材の建築材料としての大きな違いのひとつは「大きさ」ではないか、と考えている。

たとえば、樹木など地球上の生物活動から生み出される有機材料の大きさは、生物の個体のサイズに自ずから制限される。世界最大の樹木はアメリカのレッドウッド国立公園の高さ115m、直径4.84mという巨大なセコイヤメスギであるとされているが、逆に言えばそれ以上の「大きさ」の木材は地球上に存在しない。

一方で石や金属、土などの無機材料は、惑星内部での造山活動がその製造装置だと考えれば、我々人間のスケールから見るとほぼ無限の「大きさ」をもつことができる(星のサイズという物理的な限界があるにせよ)。 たとえばヒマラヤ山脈などは、プレートテクトニクス運動によって持ち上がった、巨大な一塊の岩盤である。

このような素材観にしたがうと、 大きさが有限である有機素材による空間は必然的に素材と素材の間に生じる「隙間」のデザインとなり、その代表的な建築のエレメントが「格子」である。たとえば日本の木造建築の軸組はその隙間を建具や土壁で埋めた「格子」の一種であり、板張りの床や天井も、細かな隙間をもつ木片の面と考えれば、広い意味での「格子」と言って差し支えがない。

有機物による空間が「隙間」を持たざるを得ないのに対し、無機素材による空間は隙間のない「面」によって形成可能なことが最大の特徴である。その究極の形態は巨大な無機素材を刳りぬいてつくった「洞窟」である。石や煉瓦を積み上げてモルタルなどの目地で一体化させた「ドーム」も「洞窟」の一種である。土壁塗りの茶室も木造の軸組(格子)の隙間の大部分を無機素材によって充填した準「洞窟」空間と言えるだろう。

「篁」(たかむら)は、茶道具や工芸品の製作を手がける京都の「高野竹工」直営店舗である。京都の祇園にほど近い、骨董店が軒を並べる新門前通に面したビルの一階に位置している。設計を手がけるにあたり会社の工房を訪れ、熟練した職人が手がける繊細な箸や茶杓を見て、竹を使った微細なインテリアで覆われた空間がこの会社のアイデンティティを象徴する空間としてふさわしいのではないかと考えた。

町家の正面に通常用いられる木製の格子は、木材の強度と耐久性を考慮すると最小でもせいぜい20ミリほどの幅にしかならない。その一方で竹は数ある植物性の有機物素材の中でも強度や靭性にすぐれ、精巧な細工を施すのに特に適した素材である。ここでは職人がわずか5ミリに割いた竹を20ミリの間隔で横桟に固定して制作した、極細密の格子によって壁面全体を構成した。

背後に建具や壁のある面は、格子のつくり出す陰影によって壁の面に奥行きが生まれ、ガラスのある面は表裏二重に配置した格子によって、視線の移動にともなう独特の揺らぎのような現象をつくり出している。 また、規則的に繰り返される「隙間」によって、竹格子の表面にある節のランダムな配置や質感が、より強調されて感じられるようになっている。

格子で構成された壁面に対して、商品を展示するスペースにはできる限り「隙間」の無い面を持つ素材を使いたいと考えた。日本の伝統的な工芸品を展示する台には檜や欅の一枚板などが使われることが多いが、大きな面をもつ有機物素材は大きければ大きいほど希少性が嵩じて高価になる。その点、無機素材は面の大きさに対して極端に単価が上がることもなく、また有機素材にはない独特の重厚な質感がある。

そこで展示スペースの壁にはぐるりと塗り回した「洞窟」のような土壁を、天板には黒皮鉄板という無機材料を用いることで、経済性や希少性に左右されること無く自由に必要な大きさの面を選択できるようにした。製鉄技術も左官技術も、どちらも地球の表面や内部で行われている物理現象を人間が擬似的に再現した無機素材の生産・加工技術であり、継ぎ目のない大きな面をつくるのに適している。

この空間では有機/無機素材のもつ素材の特性を意識的に使い分け、有機素材の微細な「格子」の中に無機素材の重厚な「洞窟」を、そしてこの「洞窟」の中に有機素材である竹製品の繊細な輪郭や軽やかな質感を、対比的に浮かびあがらせることを試みている。


篁 (たかむら)
用途/プロダクトショップ
所在地/京都市左京区
設計/森田一弥建築設計事務所 担当 森田一弥/木村俊介
施工/エクセル住宅建設、久住左官
店舗ロゴ/華雪

写真/表 恒匡