築100年近い三軒長屋の1棟を改修した住宅である。敷地は京都市左京区の大文字山から哲学の道を経て京都市内へとつながる傾斜地の中腹にあたり、市街地や周囲の緑地への眺望にも恵まれた自然豊かな立地である。

 

その一方で既存建物は建設当初の建物から増改築が繰り返されており、構造的にも非常に不安定な状態にあった。そこで基礎は既存の石基礎を鉄筋コンクリートのベタ基礎で補強・一体化し、既存の柱も半数近くを入れ替えるほどの大々的な構造改修を行った。

隣家と一体化した長屋であることを考慮して、構造壁は極端に建物の剛性を高める構造用合板の使用を避け、隣家と同じ竹小舞下地の土壁を用いた柔らかな構造とし、限界耐力計算によって壁量のバランスを確認している。また基礎底面、外壁、屋根に十分な断熱を施し、二階天井面に貯まる暖気を一階床下に送り込むためのダクトとファンを家の中心に設置することで、古民家特有の上下階の温熱環境差を少なくするように配慮した。

平面計画を検討するにあたり既存建物と周囲との関係を観察した結果、既存建物の上下階の使い方をそっくり反転させ、まずは見晴らしの良い二階部分を人が集まる大きな空間とし、路地や小さな庭に面した一階部分はプライバシー性の高い小さな空間の集まりとすることにした。また路地に面したファサードについては隣家からの連続性を尊重し、外壁の杉板と左官壁の割り付けや窓のレイアウト、増築されていた玄関部分をそのまま利用することにした。

 

周辺環境と住宅内部をつなぐ窓については、窓辺が心地よい「居場所」となるように、位置や大きさ、奥行き、開閉形式について特に念入りに検討を行った。大きなガラス窓には桟を入れるなど外部に対して無防備にならないようにしたり、その窓に沿って家具を設えたりすることで、窓に寄り添うように生活を楽しむことができるように様々な配慮がなされている。

 

前作の「御所西の町家」で「多次元的時間遠近法」と呼んだ、建築を構成する「形式」や「工法」「工程」「素材」などが内包している、異なる「時間」を意識的に扱いながら設計する手法について、今回は明快な構成をつくることなく(前作における土間、和室、浴室の三重入れ子のような)、部分部分における最低限必要な所作が組み合わさった結果として、空間全体に「時間の奥行き」が浮かび上がることを試みている。

まずは、100年近い年月の「建物の経てきた時間」をできるだけ尊重するために、古い柱の傷や塗装を無理に隠蔽せず丁寧に補修し、土壁の塗りの工程も最低限にとどめ、改修行為が過去の痕跡を覆い隠してしまわないよう、細心の注意を払った。また、新規の構築部分には経済的、機能的な合理性を優先して針葉樹合板やFRPなど現代に一般的な素材や工法を用いているが、構造的な配慮から一部の壁には新規に組んだ竹小舞に荒壁を塗るなど、必要に応じて古い工法を用いることで、新しさと古さが極端なコントラストを生むことなく、時の流れのようにシームレスに同居できるようにした。

 

約7ヶ月にわたった改修工事の「工程という時間」もまた、この建物の歴史の一部として空間に参加できるよう、モノが出来上がったプロセスを見えなくしてしまう「仕上げ」という工程を極力排除した。具体的には、既存の土壁は最低限の補修だけにとどめ、新規の間仕切壁や建具もフレームの片側のみに合板を張るなど、モノが組み立てられていく状態が可視化されるようにした。

こうした「時間の設計」を行うにあたり、改修前や改修中の空間に浮遊する無数のエレメントを安易に間引いたりして空間を抽象化する、すなわち「時間」が失われることを避けるために、図面上の検討だけで設計の判断を下すことを避け、常に情報量が多い現場の状況に立ち会いながら最終的な決定を行うよう努めた。

こうして生まれた空間が、はるか昔からこの土地に住まいを構えてきた人々の記憶を引き継ぎながら、「今・ここ」に生きていることの確かな実感に溢れた日々の舞台となり、また新たな世代へと受け継がれていくことを願っている。

 

【データ】
作品タイトル/ 法然院の家
用途/個人住宅
所在地/京都市左京区
敷地面積/103.19m2
建築面積/56.86m2
延床面積/104.57m2
設計期間/2014年12月〜2015年10月
工事期間/2015年11月〜2016年5月
設計/森田一弥建築設計事務所(森田一弥、木村俊介)
構造/満田衛資構造計画研究所
照明/岡安泉照明設計事務所
テキスタイル/森山茜
施工/コラボ建築設計株式会社(旧・エクセル住宅建設)
写真/表 恒匡

 

森田一弥 略歴
1971 愛知県生まれ
1994 京都大学建築学科卒業
1997 京都大学大学院修士課程修了
1997-2001 京都「しっくい浅原」にて左官職人として修業
2000 森田一弥建築設計事務所設立
2007-2008 ポーラ美術振興財団新進芸術家海外研修員(バルセロナ)
2011-2012 文化庁新進芸術家海外研修員(バルセロナ)
現在 森田一弥建築設計事務所代表・滋賀県立大学非常勤講師
主な著書「世界住居誌」共著 昭和堂 2005
「京都土壁案内」塚本由晴と共著 学芸出版社 2012

受賞
アーキテクチュア・レビュー誌AR AWARD 2006 優秀賞 CONCRETE-POD
大阪建築コンクール 「渡辺節賞」 2009 SHELF-POD
など