建築を批評する際、設計をした建築家がどのようなフレームで世界を認識しているか知ることが重要だと最近思う。そのフレームをかたちづくる要素の一つに、建築家の経由点というものがある。プロジェクトとして経験したビルディングタイプに内在する文法が、その後の設計に強い影響を与えるということがあるからだ。

そういった意味において『綾瀬の基板工場』について書く前に、設計者である浜田晶則(AKI HAMADA ARCHITECTS代表。以下AHA)自身の興味深い経歴に触れざるを得ない。

1984年生まれの彼は、学部時代を首都大学東京で過ごし、『森のサナトリウム』というタイトルの卒業設計で、福祉をテーマとし、結核病患者ではなく現代のうつ病患者の療養所を設計していた。光が透過する美しい模型が記憶に残っている。2010年のせんだいデザインリーグでも上位入選している。当時、他のイベントで一緒になった時にも、身体に肉迫し、人を療養するものとしての建築や空間の可能性を話していた。

その後東京大学大学院に進学し、アルゴリズムを駆使したコンピューテーショナルデザインを研究し、コロンビア大学GSAPPとの共同ワークショップにて『digital tea house』(2010)などを手掛け、その後自身の事務所を立ち上げた。2012年のSDレビューでは、柱梁がグリッドシステムを形成し、そこに交換可能なコンポーネントしての建具が重層した『Dolphin House』で入選。来場者がipadアプリで平面形や建具をカスタマイズする事でオリジナルの建築をつくることができる展示をおこなうなど、プログラミングを介したチャレンジがなされ始める。また、さらなる異色な経由点として、2014年からウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」の建築部門のパートナーも務め、訪れる人々とのインタラクションが空間自体にフィードバックを起こすようなインスタレーションに取り組み、より動的な空間づくりが実践されている。


『Dolphin House』(提供:AHA)

『Wander through the Crystal Universe』(チームラボと協働)

展覧会やインスタレーションというタイプの仕事を経由していく中で、全体のシステムの中にその場を訪れる人間が一部触れる・遊べる領域をつくるというアプローチが試されて来た。アルゴリズムをつくろうとする思考を経由したことで、彼の認識は、システム/コンポーネントのような二層構成を持つフレームによって先鋭化してきたように思える。この関係を空間的に言い換えるとすると、システムは空間構成、コンポーネントとは建具・家具・アイテムとなるだろうか。アルゴリズムはその両者を繋ぐものである。AHAのプロジェクトで言えば、コンポーネントを通じてユーザーや外部環境からの入力信号を、システムのあり方自体にフィードバックしていく構成原理と言えるだろう。彼のプロジェクトにおけるアルゴリズムの現れ方は、インスタレーションでは実空間においてリアルタイムに展開されるが、建築になると設計のプロセスに限定されたりと、様々な方法が模索されている。

 

二層構成という認識

『綾瀬の基板工場』は、神奈川県綾瀬市にあり、厚木基地に隣接する住宅地にある。周辺には工場、倉庫なども散見される。そういった立地条件から「住宅のような工場」というビルディングタイプが目指されており、鉄骨ではなく木造トラスの無柱空間が全体の構造形式として採用されている。


明快な断面構成が表現されているファサード

断面構成が明快で、内部空間はH2100を境に二層構成となっている。上部空間(H2100〜H3600)は木造の立体トラスがダイナミックに巡り、床を支え、屋根となる。下部空間(H2100以下)は3600角の部屋が九つフラットに並ぶ。金剛界曼荼羅や、九間を想起させる異様な平面である。このひとつながりの空間をは、建具で自由に仕切ることができ、建具のモジュールがすべて統一されているので、入れ替えも可能だ。このH2100に広がる水平部材は上部空間においてはアルゴリズムを実装するための基準線、下部空間においては建具を支える長押、鴨居として解釈される。さらに二層構成の空間が2階分積まれており、その断面構成が庇や廊下として外部に延長され建築の構えがつくられている。


上部と下部の二層構造と可変的な建具を持った内部

アルゴリズムが効果的に用いられたのは、以下の二カ所である。1階の上部空間における、木造トラス居室側を除けた条件下での空調設備の最短ルート。2階の上部空間における、日射を制御する屋根自体の勾配と膜天井の1年を通して机上面に直射日光を落とさない最低限のレイアウト。上下階の上部空間での工学的、あるいは環境的という異なる制御にそれぞれのアルゴリズムで実装しつつ、下部空間における利用面での仕切り方や視線の制御は建具の開閉により制御し、使う人間に委ねている。

サーブド/サーバント的とも説明は可能だが、システム/コンポーネントという彼の二層構成的な認識が、RCや鉄骨のオフィスビルではなく、木造建築において実践されたことが、異様な建築を生んだ。

さらに、単なる「空調のダクト」だとしてもそのシルバーの鈍い反射が「工場」としてのイメージに紐付き、大きなスケールのトラスだとしても「小さい断面の木」であることが「住宅」に紐づく。もちろんこの建築は木造倉庫の進化系として系譜的に理解することもできるが、要素と意味がねじれた関係にあるために、見たことの無いエモーショナルな空間をつくり出している。事物に紐づくイメージというのが、一対一対応というよりは、フラットにネットワークを構成するように彼の脳内で再編されているのかもしれない。


上部空間の空調設備(1F)と日射調整の膜天井(2F)

建築の自律性

と、この建築の用途について、ここまでほとんど触れずにきた。この建築がもつねじれは、「基板工場」という名前に反して「工場」では無いということによっても生じている。
元々は基板工場の作業場としての増築計画だったので、たしかに工場として設計がスタートしたのだが、最終的に1階はワインバーを備えた地域開放のコミュニティスペースとなり、2階はオフィススペースとなった。機械がズラっと並んでいる風景を想像していたが、地域開放・トークイベントなどの機会を提供する建築となっている。


建具を移動することで外部と繋がる

これは建築の説明と、機能がたがいに独立しているということだ。もちろん設計者が、クライアントや社会のニーズと関係のないところで設計していたわけではなく、基板の製作工程における機械や作業台の寸法と、ワインセラーやテーブルなどの寸法が割と近かったことで、スムーズに移行できたのかもしれない。

「地域に開いたワインバーを備えたコミュニティスペース付きオフィス」と理解すると、非常にウェットで地域と連続していくような空間が想起されるが、彼はそのようには語らない。工場は超目的的につくられるビルディングタイプだが、ここではその目的は漂白され象徴としてのみ残り、ただの「間」がつくられている。そしてこの「目的を漂白された工場」という存在こそが現代的な建築のあり方だと考えていると彼は説明する。

どういうことか。これは建物と中身の関係をバージョンアップさせるという意図だろうか。建築や美術の文脈の中で登場するコンテナーとコンテンツの関係を継承しつつも、アルゴリズムを介したシステムとコンポーネントという関係にバージョンアップすることで、より動的で自由な状況、すなわち現代の間をつくろうとしたのだと思う。プロジェクト名称があえて基板工場という初期設定のまま、というのも腑に落ちる。

目的を漂白するという態度からは、人々の声や消費的な要請からバッファを設けドライな態度で世界と対峙しようという意識を感じ取れるかもしれない。しかしながら実際はむしろ人々の声を無視するわけではなく、二層構成によって最大限編集可能な自由を確保し、人間・あるいは身体的なものへと肉迫していく。そして建築家は、フレームの中で起きる現象や反応を次なるコンポーネントへとフィードバックしていく。
人間に迫り癒すこと、建築を自律させること、この一見矛盾を起こしそうな思考をハイブリットさせるのが、福祉発、アルゴリズム経由の建築論である。

【著者プロフィール】
山道拓人(さんどう たくと)
1986 東京都生まれ
2009 東京工業大学工学部建築学科卒業
2011 同大学大学院 理工学研究科建築学専攻 塚本由晴研究室 修士課程修了
2011- 同大学大学院 博士課程
2012 ELEMENTAL
2013 Tsukuruba
2013 ツバメアーキテクツ設立
現在 東京理科大学、関東学院大学非常勤講師

*『綾瀬の基盤工場』についてはこちらをご覧ください
*写真:kentahasegawa(ただし『Dolphin House』除く)

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Edited by Shinichi KAWAKATSU