「今、基礎つくってるんすよ」と、躯体の窓の見学会後の飲み会で増田くんがうれしそうに言っていたのが3年前。それがリビングプールとして発表されて、次は「屋根つくってるんすよ」と得意げに言う増田くん。これまで建築のある部位だけを攻めてきた増田大坪。もはやこれは、確信犯と言っていいだろう。

完成していよいよ植栽も落ち着いてきたからと、その屋根を見に行った。敷地は、比較的大きな住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街のなかにある旗竿敷地。個々の敷地が大きいため竿の部分が異様に長く、ぎりぎり2m接道しているかどうかという幅の狭い通路を抜けると、40年ほど前に建てられた母屋の玄関にたどり着く。その玄関を素通りして裏の庭に出ると、一本足でたたずむ、華奢で長く大きな白い屋根が突如現れる。幅は玄関までの通路とほぼ同じだがとても背が高い。そして、その存在感は異様なほどに強く、こちらにぶつかってくる。

この屋根は、一本の軸線上に均等に並んだ四本の柱が薄い鉄板の屋根を支え、うち2本の柱の間を階段が斜めに渡るという構成になっている。と、言葉にすると簡単なのだけど、解像度を上げてみると、なかなか不思議なところが見えてくる。屋根は薄い鉄板1枚なのだけど、一本足であるためそのままでは自立できない。そこで鎖樋を屋根の板の対角線上の角2点で引っ張って捻ることで、自立する。と同時に、捻ることで屋根に勾配をつくりだし、うまく鎖樋に雨水が落ちる、という仕組みになっている。柱間にある斜めの材はブレースとして効かせつつ、2階のベランダと1階をつなぐための階段のささら板として利用している。手摺は、手摺子間の長さより材を若干長めにすることでわざとたわませ、しなやかにしなる柔らかな感触をつくりだしている。こうして見ていると、この屋根が何のためにつくられたのかが段々わからなくなってくるのだけど、スチールで構成されている各部材が、それぞれ特性が活かされつつとてもイキイキした状態でそこにある、ということを素直に感じることができる。つまり、スチールというモノが素材としてではなく主役として扱われることで、屋根という機能よりも先にその物質性が前に出ている「モノ化された状態にある」と言える。

では、そもそもなぜ、このような建築をつくったのか。設計者の説明によると、母屋と離れを結ぶ渡り廊下として、はたまた2階と離れをダイレクトに繋げる動線としてつくった、という。さらには、屋根があることで、母屋への日の入り方をコントロールし、2階からの風景を屋根によって切り取りつつ、屋根裏に反射させて増幅しているという。確かに、慣習的な建築的コンテクストに沿えば、そういった至極まっとうな理由で説明することが可能だろう。しかし、それらはあくまでカタチの説明の方便であり、設計者以外の他者が共通に理解するための言葉でしかない。

ここで考えなくてはいけないのは、他者ではなく設計者としての増田大坪の言葉であるが、彼らは言葉を利用して建築を説明することから極力距離を置こうしている。あるいは、建築が言葉に変換されて理解されることを望んでいない。だから彼らは、「言葉」を道具として使用しないで「磐座*」というモノを使用することで自分たちの建築の説明を試みている。つまり、他者であるわれわれ受け手は、言葉ではなくモノそのものによってその意図を感じとることを強いられている。そう考えるならば、建築の部位だけを設計しているという確信犯的な説明が、便宜上の言葉であることが理解できる。ここで重要なことは、モノは「強度」をもつことによってはじめてそこにある意味や機能から開放されるということである。そして「強度」とは、何事なのかを考える余裕なしに、あるいは道具としての言葉より先に、速く、強く、何かがぶつかってくることであるとするならば、磐座もこの建築も、まさしくその「強度」をもったモノであることは間違いない。

増田大坪がここで実現したかったことは、もはや説明のための言葉を必要としないほどの「強度」をもったモノをつくること、にあったのではないか。そこに存在する理由など必要なく、ただそこにあってなんとなくあるといい、と感じられるまで純粋に「強度」が発露した状態のモノ。特定の機能も建築の名称もない、ただのモノ。それはつまり、環境を、関係を、風景を、何気なく変革する新たな自然物のような建築である。そんな建築を、敷地が更地の時まで戻った状態において、あたかも始めからそこにあったかのように置くこと、もしくはあること、をめざしたのではないだろうか。

現在、増田大坪は、始めの屋根の写真を10億画素という凄まじい解像度で製作しようとしている。その写真は、樹木も雑草も土も母屋の外壁もフラットに細部まではっきりと認識できるはずである。それをもってすれば、彼らが意図したであろう、新たな自然物のように建築をつくるという意図を、10億画素という「強度」をもってして了解することができるだろう。

【注】
磐座:神の御座所。自然の巨石をさす場合が多い。増田大坪は、神聖な場の必要性から象徴性がつくられる縦列的な関係ではなく、岩や木が及ぼす影響がその周辺を特別な場所性とすること、また、そこに人が必要に応じて見出していく関係性、と言及している。

 

配置図

 

一階平面図

 

二階平面図

 


長手断面

 

断面詳細

 

始めの屋根(写真:石山和広)
磐座(写真:石山和広)

 

【著者プロフィール】
村山徹(むらやま とおる)
1978年大阪府生まれ。2004年神戸芸術工科大学大学院修了。20042012年青木淳建築計画事務所。2010年ムトカ建築事務所設立。現在、関東学院大学研究助手。建築作品にN邸》《赤い別邸》《ペインターハウス》《小山登美夫ギャラリー》ほか。www.mtka.jp

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※写真・図面提供:増田信吾+大坪克亘

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Edited by Shinichi KAWAKATSU