武井誠と鍋島千恵のユニットであるTNAが、銀座でビルを設計していることを知ったのは2009年の夏のこと。『GA JAPAN』誌上での計画案の紹介記事★1を読んだのであるが、その印象があまりに鮮烈だったから、このプロジェクトには個人的にずっと関心を持ち続けてきた。

その記事のメインカットは夜景のCGで、障子紙のように霞んだ外装のスクリーンから、暖かい色の光が柔らかくにじみ、華奢な線材で組まれた目の粗い籠のようなストラクチャが、影絵のように浮かび上がっている。内観のCGを見ると、ストラクチャを構成する線材はほとんど下地材くらいのメンバーで、表面には白木を思わせるテクスチャが貼られている。それは明らかに和風の再解釈を意識したデザインであり、それまでのTNAの建築の延長線上にありながら、新しい展開を感じさせるものだった。


計画案のCG(画像提供:TNA)

それから約8年が経ち、竣工したのが《銀座夏野Rblg》である。実物を見るのを心待ちにしていたから、内覧会には迷わず駆けつけた。

竣工までに長い時間を要したプロジェクトだが、外観のイメージは8年前の計画案発表時から大きく変わってはいない。高さは当初より抑えられているが、外周にはガラスのマリオンも兼ねたわずか100mm角の無垢の鉄柱がランダムに並び、それが梁せい150mmに満たないH形鋼の梁材でところどころつながれた、木造の住宅とさほど変わらないスケールの構造は、外観に表されて繊細な工芸品のような表情を銀座の街並みに添えている。箸や和食器を扱う店舗としても利用されるフロアには、内部の様子がうかがい知れる透明な外装が付与されているが、外周部には二重螺旋の避難階段も廻され、それがフロアごとに異なる面に現れている。フロアを包む透明なガラスとは対照的に、階段には視線を制御する型板ガラスが貼られ、ランダムな構造体がつくるランダムな割付の外装のなかに、ゆるやかにうねるような半透明のパターンを出現させている。型板ガラスは、むろん夜には行燈のような暖かい光を周囲に柔らかく放つわけで、《銀座夏野Rblg》は、計画時のイメージの通り、和の雰囲気を十分に感じさせるものとして立ち現れている。

しかし、内部から受ける印象は計画時とはだいぶ異なっている。外周にランダムにばらまかれた構造体は、そのことによって構造体であることを感じさせず、どちらかといえば二次部材のように現れているのであるが、構造体としてはか細いメンバーの鉄骨は、したがって無骨な二次部材のようにも感じられる。なにより、計画時には白木であるかのように仕上げられていた構造体は、黒く塗られて素っ気ない。そのあり方は、大人の街にふさわしいシックなたたずまいであると表現することもできるのだが、同時に、銀座の華やかな街並みの裏に隠された、装飾とは無縁の裏方のスペースとの呼応をも感じさせる。考えてみれば、《銀座夏野Rblg》では、通常は表に現れてこない避難階段が全周に廻されているのであった。

この解釈が正しいのだとすれば、《銀座夏野Rblg》は、実現に至る過程で、銀座の華やかな側面ばかりではなく、都市のリアリズムにも向かい合う覚悟を決めたのだということができる。しかしこのことを、時代や社会の暗い方向への変化などと呼応させて、TNAの態度変更であると考えることは早計だろう。ここで試みられているのは、表と裏に断絶されてしまいがちな建物の都市的表出を等価に扱うことであるが、「裏をつくらない」設計こそ、TNAの作品に一貫して現れている特徴にほかならない。そしてTNAは、《銀座夏野Rblg》に至って、都市的な構造を反転させ、都市そのものから裏と表の序列的な区別を取り去ってしまった。TNAの方法は、むしろぶれずに磨かれ続けているというべきなのである。

★1――『GA JAPAN』No. 99(エーディーエー・エディタ・トーキョー,2009)pp. 116-119参照。

 

【著者プロフィール】
門脇耕三
1977年神奈川県生まれ。2001年東京都立大学大学院修士課程修了。東京都立大学助手、首都大学東京助教などを経て、2012年より明治大学 専任講師。同年にアソシエイツを設立。博士(工学)。著書に『シェアの思想/または愛と制度と空間の関係』(LIXIL出版,2015)など。http://www.kkad.org/

 

『銀座夏野Rblg』についてはこちらを参照

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Edited by Shinichi KAWAKATSU